近年の建築住宅では、デザインの簡素化や敷地条件の制約により、「軒（のき）」のない家、いわゆる軒ゼロ住宅が多く見られます。
軒は昔から日本家屋の特徴の一つであり、見た目の飾りではなく、日本の気候（雨が多く、四季がある）に合わせて、建物を守ったり、日射を調整したりする理にかなった構造として作られてきました。
日本は多雨多湿の気候であり、雨水が外壁や窓、土台に直接当たると、劣化や腐食、雨漏りの原因となります。軒は屋根を外壁より外側に張り出させることで、雨の吹き込みを防ぎ、建物の耐久性を高める働きを担っております。
夏は太陽の位置が高く、冬は低いという日本の四季に合わせ、軒は庇（ひさし）として機能します。
夏には直射日光を遮り、室内の温度上昇を抑える。一方で冬は低い角度からの日光を室内に取り入れ、暖かさを確保する。これにより、一年を通して効率的に、室内を快適な温度環境に保つことができます。
また、軒は建物の「顔」とも言える存在であり、屋根の厚みや陰影を生み出し、建物全体のバランスを整えます。
伝統的な古民家では、深い軒が建物に落ち着きと品格を与え、街並みとの調和を生み出します。
しかし、近年の住宅では、スタイリッシュな外観やコスト削減、狭小地対応のために軒が無いデザインが増えてきました。軒を無くすことで、雨が直接あたり、外壁の劣化が早まり、塗り替えなどの手入れが増えると言われています。 今の住宅は断熱性能が高くなっているため、軒の有無が直接的に冷暖房のエネルギー消費を大きく左右するわけではありませんが、それでも、軒があることで日差しの当たり方を自然に調整でき、夏の暑さや冬の寒さをやわらげる助けになります。
年々大型化している台風をはじめ、豪雨や雹などが脅威となっている昨今、軒ゼロ住宅には防水処理の精度がより重要になります。
すぐに外壁が雨で傷むわけではありませんが、 軒が少ない分、外壁や窓まわりにかかる負担が大きくなる傾向があります。
特に雹に関しては、雹が外壁やサッシまわりに直接当たりやすくなり、ガラスの割れや外壁のひびが懸念されます。
軒は、単なる屋根の延長ではなく、日本の気候や文化に合った「建築の知恵」です。
個人的には、突然雨が降ってきても傘となって雨宿りができる深い軒のある家が好きです。
次回は、「屋根勾配の地域差 東日本 vs 西日本です」を予定しております。
お楽しみに！